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ネタバレ率1%以下書評|『私たちは売りたくない』が告発するのは、ワクチンだけではない。倫理と技術のあいだで揺れる社会の話|書評・個人的な感想と考察レビュー

こんな方におすすめ

  • 極力ネタバレ無しで本作の魅力に触れてみたい
  • 科学や技術が倫理とどう向き合うべきか深く考えてみたい
  • 製薬会社という“内側”の視点から現代社会の構造を読み解きたい

なぜ今さらこの本を読むのか
“コロナ以後”にこそ問われる主題

タイトルは挑発的だ。この本が刊行されたのは、2024年。
新型コロナウイルス(COVID-19)による社会的混乱がようやく沈静化の兆しを見せ、「あの頃のこと」は徐々に過去の記憶として片付けられつつあった時期だ。けれど私は、こう思った。
むしろ、コロナが“終わった”からこそ、この本は読むに値する。なぜなら、この本が描いているのは単なる“パンデミック下の混乱”ではない。それは、もっと根源的な問い「私たちは、どこまで科学と国家を信じるのか?」という、技術社会における永続的なテーマだ。

著者は現役の製薬会社社員たち。医薬品を「売る」ことを生業とする彼らが、なぜ「売りたくない」と訴えるに至ったのか。その葛藤は、製薬会社の是非を論じる以前に、私たちが今の社会で生きるということそのものを問うているように思える。

目次

署名:私たちは売りたくない
著者:チームK
著者情報:製薬会社の現役社員たちによる匿名ユニット
出版社:方丈社
出版日:2024年9月
ページ数:240ページ
読了目安時間:約3~4時間(じっくり読む場合は5時間程度)

本の概要

レプリコンワクチンと「未来の薬害」これはまだ終わっていない物語

この本が最も強い警鐘を鳴らしているのは、「レプリコンワクチン」という技術だ。mRNAワクチンが世に出たばかりの頃、人々はそれが「革新的で安全」と信じていた。けれど次に登場したレプリコン型は、それよりもさらに新しく、そして“自己増殖型”という未知の要素を含んでいた。

科学は進歩する。それ自体は否定しようがない。
問題は、その進歩がどこまで検証され、どこまで人間の倫理と対話しているかということだ。著者たちは、レプリコンの技術的な詳細だけでなく、それがどのように“国策”として承認されようとしているかにも注目する。

「科学技術は政治と結びついたとき、時として人間の身体を“装置”として扱い始めるのではないか」。この本が投げかける問いは、決して過去のものではない。ワクチンが変わっても、技術と社会の構造が変わらなければ、次の“薬害”は静かに未来で育ち続けるだろう。

ワクチンイメージ

社員が声を上げた理由

これは倫理の本であり、技術の本である。この本を読みながら何度も思い出したのは、アウシュビッツの医師たちの話だった。医学的には「正しかった」彼らの実験が、人間としての倫理を大きく逸脱していたという矛盾。

著者たち"チームK"の人々は、そうした倫理と職務の狭間で苦しむ“現代の良心”だ。彼らは製薬会社の社員でありながら、同僚をワクチン接種後の突然死で失い、その死が「国から因果関係ありと認定された」という事実を受けて、社内調査を始めた。

彼らの視点は一貫して冷静だ。感情的に煽るわけでもなく、陰謀論に陥るわけでもない。公的機関が出しているデータを淡々と分析し、「これは安全とは言いきれない」と静かに結論づける。その語りは、むしろ良心の痛みによる理性の文章とでも言うべきものだ。科学とは、本来“人間の幸福”のためにあるものだったはずだ。けれど、幸福が数値で定義され、集団最適化のもとに運用され始めたとき、「自分の体を預ける」ことは、どこか匿名で機械的なものに変質していく。この本は、その変質に対する静かな抵抗でもある。

「信頼」とは何か... 科学、国家、そして私たちが選ぶ未来

人は、自分がよく知らないものに対して「信頼」という名の飛躍を行う。医療にしても、政治にしても、インフラにしても、それなしには社会は動かない。けれど、私たちは時々、その“信頼”が無意識のうちに強制されていることに気づかないまま、生活している。『私たちは売りたくない』は、その構造に疑問を投げかける。
一見、「反ワクチン」や「企業告発」といった表面的なトピックに見えるかもしれない。けれどその本質は、「信頼の設計図」をもう一度、個人の倫理と理性によって書き直そうという静かな試みだ。

読後、私はある種の感謝を覚えた。あの喧騒の渦中では、見落としていたことに気づかせてくれる本だった。そしてこの本の存在が、「もう終わったこと」にされようとしている記憶の中で、今もなお生きている問いを、そっと拾い上げてくれたような気がした。

 

まとめ

私たちは、日々さまざまな“選択”をしている。
それが投票であれ、食事であれ、予防接種であれ、その背後には「どの情報を信じるか」がある。この本は、読者に「こうすべきだ」と命令しない。むしろ、「あなたは何を信じますか」と問いを投げてくる。その問いに正解はない。けれど、問いかける行為そのものが、思考する自由の再確認なのだ。

時代が変わっても、この本が語り続けるものは変わらない。それはきっと、「人間であることの痛みと誇り」だ。

書籍・著者情報/本の目次

署名:私たちは売りたくない
著者:チームK
著者情報:製薬会社の現役社員たちによる匿名ユニット
出版社:方丈社
出版日:2024年9月
ページ数:240ページ
読了目安時間:約3~4時間(じっくり読む場合は5時間程度)
目次
1章 ワクチンの未来を信じるな
2章 製薬会社の社員として忘れてはいけない日
3章 「mRNAワクチン」は、神か? 悪魔か?
4章 安全なワクチン、危険なワクチン
5章 「レプリンコンワクチン」を売りたくない理由
6章 会社の歴史と誇りを未来に繋げられるのか
7章 なぜ、会社はレプリコンを「全力推進」させるのか?
終章 レプリコンは、誰も幸せにしない 

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